天使の庭リースにて今宵、夜想祭が開催される。
夜想祭とは、幸福の兆候とされているオーロラの祝福を行う為の催事である。
長らく途絶えていたが、先日の女王の卵の誕生によるオーロラの出現を祝して、久方ぶりの開催となったようだ。
お時間のある方は、是非参加してみてはいかがだろうか。
天使の庭リースにて今宵、夜想祭が開催される。
夜想祭とは、幸福の兆候とされているオーロラの祝福を行う為の催事である。
長らく途絶えていたが、先日の女王の卵の誕生によるオーロラの出現を祝して、久方ぶりの開催となったようだ。
お時間のある方は、是非参加してみてはいかがだろうか。
「……みんなと、はぐれてしまったわ」
レインとニクスさんとベルナール兄さんと、ついさきほどまで一緒にいたはずだった。
逆流する人並みに飲まれてしまって、やっと解放されたら三人とも、どこかへ行ってしまっていた。違うわ、私が迷子になったのね。
リースはほぼ地元に等しいけれど、ここまでの人混みとなってしまっては話が別で。
商都ファリアンや首都ウォードン、聖都セレスティザムのような普段より賑わう町ではなくて、町中が顔なじみとなってしまえるような比較的穏やかな場所だけに、様変わりの仕方に若干戸惑ってしまう。
(かといって陽だまり邸に戻ってしまうわけにもいかないし……)
とやかく歩き回るよりもと、広場の中央にある天使像の噴水付近のベンチに腰掛けて、通る人の顔を見分けてみる。
隣に人が座っても大して気にもしなかった。
「でぇ? 無視なわけね」
驚いて隣を見ると、ロシュさんが居た。
「それにしてもすっごい大騒ぎで驚いたよ。やっぱりオーロラってのは、威力抜群なんだな」
そういえばベルナール兄さんが、ウォードンタイムズ内で開催の記事を書いたと言っていたし、となるときっとファリアンポストでも似たようなお知らせがあったのだろう。
どんどんと、増えていく人をひとりひとり見ていると、色々街から来ていることがよくわかる。
「で、主役って言ってもいい君が、なんで一人で居るの? もしかして……ナンパ待ち?」
「違います! その、皆さんとはぐれてしまって」
「まあ、特に今の人混みに居るよりは、動かないのは得策だけどさ、ちょっとは気をつけた方がいいんじゃない? こういう時ってのは、少なからずヤバいのが居るからさ」
ヤバいの、とは、どういうことなのか考えると、目の前の人物を、どうしても疑いの目で見てしまう。
「って、なんでそんな目でオレを見るんだよ」
「私たち、ここで出会ったのを覚えていますか?」
「忘れるわけ無いだろ」
「突然カメラ向けれられて、初対面でランチに誘われて……」
エルヴィンがきっかけでそのランチも実現はしなかったけれど、嵐のような人だと思った。
嵐の中、窓の外は危険だとわかっているのに、ついついカーテンを開けて様子をうかがってしまうような、そんな怖い物見たさの感覚に近いような気がする。
不思議と悪い人ではないとは思っていたけれど。ベルナール兄さんの知り合いという素性がわかったからかしら。
「そんなに警戒しなくても、今日は何もしないって」
ロシュさんはカップの飲み物を差し出してくれた。戸惑っていると、どうぞと無理やり握らされる。
「オレも今回は取材でここに来てるの。人あたりしたから、休憩につきあってくれればいいよ」
ロシュさんは、ずずっと飲み物を吸いながら、ぼんやりと空を眺めた。
「夜想祭とは言え、オーロラを、ってか、空を見てるヤツなんて、これっぽっちもいないのな」
「今日オーロラが出ているわけではないですから」
「……騒ぐことが目的になってて……今日上を見ればすごくいいことあるのにな」
「あ」
闇夜に光る、星々の間を縫うように、一筋の光が過ぎった。
再び町に目をやると、人々は出店での買い物や、混雑の中同行者さんと離れないようにすることが必死で、誰も気がついていない。
ロシュさんの、静かな声がした。
「なんで流れ星に願い事をすると叶うって言われてるか、君は知っている?」
「いいえ、古い言い伝えだと思っていました」
「そりゃそうだけど。流れ星ってさ、見つけるのも消えるのも一瞬だろ? その一瞬でぱっと思いつく願い事は、普段からずっと願ってる強い気持ちだから、叶うことが多いんだって、説を唱えてるヤツがいてさ」
「……そう、なのですか。でも語数が多いとなかなか難しいですね」
空をじっと見つめる。
次の星が来れば、唱えられるように。
「君は、何を願うんだい?」
「アルカディアが幸せでありますように。いつ挑戦しても、消える前にすべて言い終われないんです」
ロシュさんは、こちらを見てぽかんと口を開けて動かなくなってしまう。
その後、私から目を逸らすようにずっと星を見ていて、何も言ってくれず、真剣な顔をしていて。
私は、変なことを言ったでしょうか。
「ロシュさんのお願いごとはなんですか?」
「へっ、あ、オレ?」
声にやっと反応したロシュさんは、すっかりいつもの顔だった。
「今一番は君がオレと親しくなってくれますように、かな。今度連絡入れるから電話番号教え」
「おーい、アンジェリーク!」
レインの声が遠くの方から聞こえて、姿が見えた。後ろにはゆっくりと歩くニクスさんも見える。
「タイムオーバーか。君のナイト達が来たようだから」
ロシュさんは立ち上がって、背中御市に手を振りながら去っていった。またね、と残して。
帰る前、女神様へのご挨拶替わりに、アルカディアの幸せを祈るのと同時に、またひとつの星が流れた。
その直後、オーロラの再出現で、祭りを彩るのだ。
END
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まだ君呼ばわりのよそ行きロシュと、さん付けの敬語アンジェもいいんじゃない?と。
電話番号のくだりは、SunnyShinyHollidayで電話をするロシュが居たもので。
(2010/10/03 アンジェ神曲・無料配布[今宵、君と。]収録作品)