「ってか、別に俺いらなくね?」
「そんなこと言わないでよ、天真先輩」
「そうだよ。天真君、自分が言ったんだよ?付き合ってやるって」
「あかねちゃんもごめんね、こんな遅くに」
午後9時。中等部の屋上のドアを開ける。
目線をさえぎる建物はなく、空には自然のライトのような月と星々が彼らを迎え入れたのだ。
「ってか、別に俺いらなくね?」
「そんなこと言わないでよ、天真先輩」
「そうだよ。天真君、自分が言ったんだよ?付き合ってやるって」
「あかねちゃんもごめんね、こんな遅くに」
午後9時。中等部の屋上のドアを開ける。
目線をさえぎる建物はなく、空には自然のライトのような月と星々が彼らを迎え入れたのだ。
屋上に一歩出て、この時期特有の生暖かいような湿った空気を感じながら天真が辺りを見渡せば、
すでに数人の生徒と付き添いの教師が一人の先客が座って、望遠鏡であったり、カメラであったりを準備しているところだった。
このような場面を見ると、今日は学校公認の行事だということもう頷ける。
学校の夜とあれば、厳重警備が必須であるが、今日に限ってはフェンスをよじ登ってきたわけでも、足音を立てずに忍んだのでもなく、
堂々と校門が空いていた。
中学などもうすでに立ち入ることのできない天真やあかねが易々と中に入れたのも、そのおかげであった。
「ってか、みんなで星空観察なんて夏休みまだ先だろ?それにどうせ七日になりゃまた見るくせに」
「そうなんだけど………………先生が許可くれたから、つい見たくって」
静まり返るはずの屋上。
そわそわした雰囲気と人の声が闇に響き、逆に心なしか昼間よりも騒がしく感じさせる。
「だからって、コイツまで巻き込んで」
「心配しなくて大丈夫だよ。まだそんなに遅い時間じゃないし私が見たいって、言ったの」
「でもな」
「そうだよ。見たいんだったら、せっかくでしょう?」
屋上のちょうど真ん中の、上を向けば完全に星空しかない位置を選ぶ。
先に座った詩紋の両脇に、あかねと天真。三人は何を敷くこともなくそのまま座りこんだ。
座って見上げた瞬間に、うっとりしながら空を眺め始めたあかねと詩紋を同時に見て、
この呆けたような、なんとも居心地の悪いこの雰囲気をどうしたものかと天真は頭を掻いて。
何か喋ろうと、必死に話のネタを探し、偶然に、目にとまったそれを指差す。
「お、俺、あれはわかるぜ?」
あかねも詩紋も、はっと我に戻り、天真の指を辿って目を向ける。
指した先は、とある星の群れであった。
「「え?」」
驚きの声を発したのは、あかねも詩紋も、まさに同時。
「まさか、てん」
「北斗七星ってやつだろ?」
ふふん、どうだと鼻で笑いながら得意げに言う天真。
詩紋はくすくすと決して馬鹿にしたわけではないが、笑いながら、言う。
「違うよ、天真先輩。北斗七星はあっち」
詩紋は体を腰から捻って、ほぼ真後ろを向く。
あかねは座る向き自体を変え、天真は後ろを向くことすらめんどくさいのかそのまま頭の後ろに手を組んで、そのまま寝転がった。
詩紋は二人が向いたことを確認した後、少し角度をあげて、一番光る星を指さしてから少しだけ腕を動かして言う。
「これが、北極星で、この先が北斗七星だよ」
逆さににそれを見た天真にも、形は見えていた。
少しだけ、頭を浮かせて、先ほど天真が自ら指さした星と二度三度顔を動かして交互に見る。
「なんだ? 似たようなもんなじゃねえか」
「天真君らしい反応だね」
くすっとあかねの笑う声が天真には聞こえた。
詩紋も、笑ったら失礼だよとあかねを制しながらも、結局のところ自分も今度は本当に笑ってしまっていた。
「確かに似てるんだけどね、あれは星がひとつ足りなくて南の空だから、南斗六星って言うんだって。
北斗七星とは別だけど、すごく良く似てるよね」
そのままけらけらと、笑い続ける詩紋と、照れたように不貞腐れるように拗ねた天真。
「北斗七星・・・・南斗六星?」
あかねだけから、ふっと、楽しい雰囲気が消え、うつむき加減に、呟いた。
「あかねちゃん、どうかしたの?」
異変に気づいた詩紋は、あかねの顔を覗き込む。
「いや、何となく・・・・聞いたことがあるような気がして」
ただ、あかねの胸にだけ引っ掛かった引っ掛かった単語。
別に不思議がるようなものではない。沢山存在するなかの星座二つの名であるだけ。
ただ、それだからこそ。
単語として頭から離れないこと、それが問題であったのだ。
なぜ。
「北斗七星は有名だよね。天真先輩が知ってるくらいだし」
「それどういうことだよ」
「て、天真せんぱい、い、たい」
じゃれあうように腕で詩紋の首を軽く締めながらも、天真はあかねの様子を窺う。
普段であれば、やめなよの一言であったり、少なくとも笑い声くらいは聞こえてもよさそうなものだ。
それでもあかねに笑顔は戻らなかった。
「そうじゃなくて…………」
その単語に、なにがかがあるような。
心当たりがあかねにあるわけではなかったが、ただ漠然とそう思うだけだ。
ただ、考えれば考えるほど、見えない霧で覆われて思考を遮っているような。思い出すのを戸惑うような、拒むような。
いや、思いだせないだけなのか。
詩紋は軽く天真を押して引き離しながら、続けた。
「南斗六星はあんまり有名じゃないはずだけど…………聞いたことがあるならテレビかなぁ」
「まあいろんな番組やってるから、そうかもな」
「そうだね……」
「あかね?」
変わらず、歯切れの悪い、あかね。
天真は、ため息をつきながら、話題をやり変える。ほぼ無理。
それでも、
「詩紋、今日は何をしに来たんだよ」
「これからね、流星群が来るんだって。だよね、あかねちゃん!」
「……そうだね」
「へえ。どっちの方角だ?」
「ええとね、南だから、このまま真っ直ぐでいいはず」
まさにこれから、期待膨らむ二人の会話。
詩紋と一緒に楽しみにしていたあかねの頭には入らずに、軽く聞きながら適当に相槌を打つだけで、記憶からは消えていた。
空に瞬くいくつもを線でたどれば見えるもの
他にもいろんな星座の話が出たけれど
これ以上に引っかかる名ものは、なかった。
ほくとしちせい
なんとろくせい
「…………本当に、気のせい、なの、かな?」
ぽそりとあかね自身にのみ聞こえるくらい小さく小さく呟いた自問自答は、詩紋の浮ついた声と、周りの人のどよめきと、流星の流れとともに、消える。
「見て!あかねちゃん!」
「あ! いま流れた!すごくきれい…………」
無数に流れる星。彼女らの、望んだもの。
ただ、ふと気にとめただけの単語が二つなど、その美しさと昂揚感に勝るわけもなく。
すぐに考え込んだ思考は一瞬にして停止し、いつのまにかあかねも、詩紋と天真と夢中になって、星々に見入っていた。
天の川を横断できてしまいそうなほどに長い尾を残す、無数の流星は
何日後に控えた渡れない河の伝説を自然と崩したような気がした
七夕。
『彼ら』と『彼女』の再開まで、
あと、すこし。
END
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PS2バージョンの、あかねEDの間の話です。
あのEDすごく好きです。僕の天女ー!笑 と言いたいくらい、あかねちゃんか可愛い。
(2009/03/13 星君祭・作品展示)